2015年9月10日木曜日

私たちは、憲法違反の「安全保障関連法案」に反対し、その廃案を強く訴えます。

 第2次世界大戦後、わが国は、主権者である国民の人権保障を目的とする立憲主義的な民主主義国家の実現をめざして歩んできました。そして、「政府の行為」によって「戦争の惨禍」が引き起こされた歴史を痛切に反省し、国際的な紛争を軍事力で解決するのではなく、他国民との信頼関係を築き上げることによって世界の平和と日本の安全を確保するという平和主義、および地球上の全ての人びとが平和のうちに生きる権利を有するという平和的生存権の考え方を採用することを憲法に明記しました。こうした憲法の下で、戦後70年間、わが国が直接に組織的な戦闘行為を行い、他国との間で「殺し殺される関係」になることが避けられてきました。
 ところが、今まさに、こうした日本国憲法の精神と70年間の誇るべき歴史が葬り去られようとしています。

 昨年7月1日の閣議決定により、安倍内閣は、これまで憲法上認められないという解釈が定着していた「集団的自衛権」について、行使を容認する解釈変更を行いました。現在、国会で審議中の「安全保障関連法案」(以下、「法案」)は、この「集団的自衛権」の行使を前提として提案されています。
 「集団的自衛権」の行使に関しては、憲法研究者のほとんどが、憲法違反であるとの見解を示しています。現行憲法の規定をどのように解釈しても、「集団的自衛権」行使を認める論理を導き出すことはできないからです。にもかかわらず、そうした専門家たちの見解を無視し、しゃにむに法案成立を図ろうとする政権与党の態度は、学問研究とその成果に基づく教育活動を生業とする私たちにとって、到底容認しえないものと言っても過言ではありません。

 現内閣が「集団的自衛権」合憲論の論拠として持ち出しているのは、一つは、1959年の砂川事件最高裁判所判決です。しかし、砂川事件最高裁判決は、そもそも「集団的自衛権」については何も触れておらず(もともと検討対象となっていません)、合憲論の根拠とはなりえないものです。もう一つは、1972年の政府見解です。この見解は、わが国に対する武力攻撃という外形的に明白な事実が生じた場合に、自衛のための武力行使が限定的に認められるとしていますが、「他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない」と明確に述べており、やはり「集団的自衛権」の行使を正当化する根拠とはなりえません。
 歴代内閣は、自衛隊を「合憲」の存在とするための便法として、自衛隊は憲法9条2項が保持を禁じている「戦力」にはあたらないとする解釈を採用してきました。そのことの当否については憲法上議論があるところですが、ともかく歴代内閣は、「自衛のための必要最小限度の実力」は憲法9条2項が持たないと定めている「戦力」にはあたらないとする立場をとってきました。しかし、こうした立場にあっても、「平和主義をその基本原則とする憲法が、・・・自衛のための措置を無制限に認めているとは解されない」(72年政府見解)として、自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」なるものにふさわしい範囲・程度でしか武力行使を行うことができない、とも解されてきたのです。そして、「集団的自衛権」行使のように、他国からの攻撃という外形的に明確な行為がなされてもいないのに、海外で他国の防衛(=「他衛」)のために武力行使を行うことは、「自衛のための必要最小限度」を超え、憲法違反となるという解釈を示してきたのでした。それが、長年、歴代内閣の解釈として定着していました。
 このような数十年にわたって不動とされてきた憲法解釈を、日本を取り巻く安全保障環境の変化なる曖昧かつ政策的・政治的な理由で、一内閣(行政府)の判断によって覆すということ自体、法的安定性を害する行為であると言わざるをえません。それはまた、法的論理による拘束を無視した権力行使に道を開くという意味で、主権者である国民の人権保障のために憲法によって政治権力の行使を縛るという立憲主義の要請や、専断的恣意的な行政権行使を防止・抑制するという法治主義の要請にも反する行為であると言えます。

 また、法案に規定されている多様な「事態」の相互関係や各種「事態」の認定基準、「存立危機事態」における武力行使要件の具体的判断基準等々については、国会審議を通じても明らかにされてきてはおりません。それどころか、明確になってきたことは、日本が他国の戦争に参加すること(つまり戦争を行うこと)および戦争につながる各種の行為を行うことを決定する重要な局面のほとんどが、現実には行政府による「その時々の総合的判断」に委ねられるということです。このこともまた、私たちの人権保障を支えている、立憲主義や法治主義、民主主義を否定し、近代以前の専制政治に回帰しかねない暴挙と考えられます。このような法律を国民代表機関である国会が制定するということは、法律を通じて行政府に権限を付与するとともにその権限の行使を統制するという、憲法上与えられた国会の役割を国会自身が放棄しているとさえ言いうるものです。

 以上のことから、私たちは、この法案を成立させることは断じて許されないと考えるものであり、同法案を直ちに廃案とすることを強く求め、ここにその意思を表明します。

呼びかけ人(50音順)
 雨宮洋司(富山商船高専名誉教授・海運経済学)、後藤智(富山国際大・行政法学)、広瀬信(富山大・教育学)、宮井清暢(富山大・憲法学)

2015年9月  賛同者: 87名(10/5 11:00現在)

ご賛同いただける方はぜひ、以下のフォームにてご署名ください。お問い合わせは、toyamakyouinyushi@gmail.comまで。